1980年代後半から90年にかけて、競馬人気を押し上げる活躍を見せた「芦毛の怪物」ことオグリキャップ。世代がドンピシャの競馬ファンなら、90年有馬記念でのラストランVを記憶しているはずです。
ただ、あの競馬史に残っていくであろう感動の1着ゴールを「八百長」と信じて疑わない人たちもいるようで…。一言で「そんな訳あるかい!」と相手にしなくてもよいのですが、あの名シーンにそんな嫌疑がかけられていることに、競馬を愛するものとしては黙っているのも違うかなと。
SNSなどで目に入ってくる八百長説に取りあえずお付き合いしてみます。まあ、どれも全く根拠にはならないレベルですわ。
まずはスターホースとしてのオグリキャップの活躍を以下の通りにまとめました。
オグリキャップ 1985年生まれ。父ダンシングキャップ、母ホワイトルビー、地方競馬の笠松でデビューして、3歳春にJRAへ転厩。GI有馬記念(2回)、マイルCS、安田記念含む重賞12勝。獲得賞金は9億1251万2000円。受賞歴は最優秀3歳牡馬(1988年)、年度代表馬、最優秀4歳以上牡馬(1990年)。種牡馬入り後はオグリワン、アラマサキャップなどが重賞で活躍。2010年に25歳で死亡。
オグリキャップの有馬記念ラストランVが八百長と言われる理由は?
オグリキャップの有馬記念ラストランVを八百長と言う輩の言い分は、大方が次のような流れです。
- オグリキャップは衰えていて勝てるような状態ではなかった!
- 勝ち時計が妙に遅いぞ!
- スターホースを活躍させて競馬人気を維持したかったJRAの陰謀だ!
まあ、こんな感じでした。それでは、その一つ一つを事実関係も含めて詳しく見ていきます。
オグリキャップは勝てるような状態ではなかった?
1990年のオグリキャップは、初戦に5月に行われたGI安田記念を選んで見事に1着。次走のGI宝塚記念では単勝オッズ1.2倍の期待に応えられなかったものの2着は確保しています。
しかし、秋は不振に陥りました。天皇賞・秋は6着。続くジャパンカップでは11着で、デビュー以来初めての2ケタ着順に沈んでいます。
力を出せないレースが2戦続いたスターホースの姿には、ファンやマスコミも敏感に反応。「これまで十分頑張った。もうかわいそう」「引退させるべき」の声が大きくなり、オーナーサイドには抗議の手紙が届くようになったといいます。
こうした状況から馬主の近藤氏は有馬記念を引退レースとすると発表。オグリキャップのラストランに全盛の姿を求めるのは酷という見方は、多くのファンがしていたのは確かでしょう。
勝ち時計が遅い
勝ち時計が平凡すぎるのは事実です。オグリキャップは2分34秒2で2着ゴールインしました。同日に行われた900万(現在の2勝クラス)特別のグッドラックハンデの2着馬は2分33秒6。それよりも0秒6遅いことになります。
同じ馬場条件なのに、格が一枚も二枚も落ちるメンバーのタイムの方が上。競馬を見慣れたファンなら、特に中距離以上のレースでは稀にあるケースですが、あまり競馬をよく知らない人からすると、これは疑問に思うことの一つと言えるかもしれません。
JRAがオグリキャップを勝たせたかった?
「八百長」と決めつける人がいるオグリキャップのラストラン。首謀者に関しては主催者であるJRAに疑いの目を向けているようです。
これは、オグリキャップで盛り上がった競馬人気を持続させたい。入場者やグッズ売り上げを落としたくない、といった推測が重のようですが、八百長の理由としてはかなり弱っちいですよね…。
オグリキャップの有馬記念ラストランVが八百長ではない理由
ではオグリキャップのラストラン八百長説に挙げられるキーワードが、いかに根拠が薄いものであるかを解説します。
オグリキャップに勝てる力はまだあった
この時期にオグリキャップが不調だった原因については、多くのメディアが分析しています。
「この2戦で騎乗した増沢末夫騎手と相性が悪かった」「宝塚記念後に骨膜炎を発症して過程が順調ではなかった」「馬への密着取材があり、ストレスでエサを食べなくなった」など、不調の根拠としてはかなり強いものもありました。
有馬記念に向かうまでの天皇賞・秋6着、ジャパンカップ11着は着順だけ見ると惨敗ですが、優勝馬とのタイム差を見ると1秒以内には付けています。秋2戦の結果だけで全盛を過ぎたという見方は早計だったのではないでしょうか。
勝ち時計が遅い例は他にもある
競馬を少しでも知っている人なら、勝ち時計の遅さが八百長の理由にならないことはおわかりでしょう。特に長距離に分類される2500メートル戦はスローペースになりがちな傾向があります。
そして、中山芝2500メートルはコーナーを6回通過。そのたびに馬たちは減速が必要になるので、全速力で飛ばし続けるのは難しいという特徴もあります。
90年以降も、同日に行われた格下のグッドラックハンデでの1着勝ちタイムより遅いケースは3回ありました。同タイムも1回あり、90年のオグリキャップの例は珍しいとは言えません。以下はその事例。カッコの中は同日に行われたグッドラックハンデの勝ち時計です。
1999年グラスワンダー2分37秒2(2分35秒8)
2001年マッハッタンカフェ2分33秒2(2分33秒2)=同タイム
2011年オルフェーヴル2分36秒0(2分33秒3)
2014年ジェンティルドンナ2分35秒3(2分33秒8)
競馬のレースはタイムオーバーのペナルティーが設けられていて、設定された1着馬とのタイム差をクリアできないと、その後に一定期間の出走制限がかけられます。
騎手は騎乗馬の勝ちを目指すのはもちろんですが、距離的な不安を抱えている場合は、勝ち馬に遅れずゴールすることも大事な任務。特に有馬記念は賞金の稼ぎが見込めるオープン馬たちの戦い。後々のローテーションに影響が出ることは避けなければならないのも、スローペースを呼ぶ要因と言えるでしょう。
また、逃げ馬が不在だとスローペースの傾向になりやすく、90年の場合も逃げ戦法をとると思われたミスターシクレノンが出遅れたことで、序盤が遅く流れたと見られています。
スローペースで流れると、馬も道中で息を入れやすく、スタミナよりもラストの瞬発力勝負となりがち。オグリキャップはその年の安田記念を制していて、「最適距離はマイル」というファンや評論家の声も根強くあるほど瞬発力に長けたタイプ。流れも向いた有馬記念の勝利は決して不可解とは言えないでしょう。
JRAが八百長首謀?絶対に無理でしょう…
ところで八百長があったとしたら誰が首謀者なのか。まず、馬主さんや厩舎関係者の仕切りは考えられません。上位馬が手にできる賞金は高額。そして好成績を収めた馬は種牡馬入りの声もかかりますし、生涯年収がガラリと変わります。ちょっとした報酬くらいでは絶対にまとまるものではないのは想像できます。
SNSでよく上がっているのはJRAの陰謀説ですが、これも絶対に無理でしょう。アイドルホースを勝たせることで、競馬人気の盛り上がりを維持しようとした、などの推測も見ましたが、オグリキャップはすでに引退を表明済み。そもそも競馬人気を維持しようとするなら、望むのは新しいスターの誕生かと思いますが…
オグリキャップ以外の全陣営に「負けろ」と指示したとしても、競馬の世界は勝てば官軍。必ず、出し抜けで勝とうとする裏切りだったり、奪われたチャンスに納得できない者からの内部告発が出てくるでしょう。
となると、JRAの八百長首謀はリスクしかありません。もし、年末を飾るグランプリレースが世に発覚したとしたら…競馬の存廃問題までに発展するのは免れません。
まとめ
オグリキャップ有終Vの八百長説について「そんな訳あるかい!」という気持ちを込めながら背景を紹介しました。これだけ言っても「八百長は八百長だ!」と自説を曲げない人もいるかとは思いますが…。世の中にはいろいろな人がいますし、それだけあのラストランは多方面にインパクトがあった、というまとめでいかがでしょうか!?
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